お米と日本神話
古来より日本全国各地には、春先、田植えの時期には稲を始めとする農作物の五穀豊穣を神様に願い、そして、秋の収穫の時期には農作物を収穫できたことを祝い、感謝するという様な風習があります。
そして、毎年11月23日の祝日(勤労感謝の日)は、神嘗祭(かんなめさい)の日でもあります。
神嘗祭とは全国の神社で新穀(新米)が収穫できたことを神々に感謝するお祭り(収穫祭)です。この日は宮中でも大切な祭祀が行われ、天皇が新穀を神々に供え自らも収穫の感謝と共に召し上がります。
その様なことを考えながら神社を参拝していると、神社のお社には古来日本人が「稲や農作物が無事に育ちますように!」という願いと感謝が込められているのだなということを強く感じます。
私たちの主食である「お米」は、神々からの贈り物であり、長年に渡り大切に守られてきたものです。日本神話ではアマテラスオオミカミが稲の種を「日本人の主食に」と授けて下さったと言われています。私たち日本人のアイデンティティを探る上で、日本神話とお米はとても重要なものだと思います。
日本の国生み神話の地である「神々の故郷」島根県・出雲市から車で約1時間20分。日本神話と日本の原風景が広がる素晴らしい場所があるのをご存知でしょうか。
出雲と言えば、誰でも真っ先に思いつくのが出雲大社だと思いますが、それ以上の日本神話の聖地と言える場所が実はあります。
それは、同じく島根県の「奥出雲」なのです。
奥出雲の氏神様 稲田神社
島根県奥出雲町は日本神話に登場するスサノオノミコトの奥さんである稲田姫の出身地です。そして、奥出雲の氏神様として祀られている「稲田神社」があります。
稲田神社に祀られる稲田姫のご神徳は稲作の守護をはじめ、縁結び、夫婦和合、金運招福があります。通常、スサノオノミコトと一緒に祀られることが多い中、稲田姫のみ祀られているのはこの神社だけと言われています。
稲田姫には「ひとりの女性、妻、母的」なイメージがあり、稲穂がよく実った美しい田を表しています。その名前の通り、稲田姫が祀られる稲田神社のある奥出雲は、大変おいしいお米の産地。奥出雲のおいしいお米「仁多米」は、お米の品評会では金賞を受賞しています。そして実は某国王が食べているお米なのです。
ツアーを案内して下さったことのある山内さんのお話によると、仁多米が無かったので代わりに別の銘柄のお米をその某国王に送ったら、「仁多米ではないとダメだ」と、その国王から言われたという逸話が残っているくらいです。
ツアーでガイドをお願いした山内さんは地元の人ではありません。奥出雲に惚れ込み、1ヶ月の半分を横浜、残り半分を奥出雲町という生活を続けていました。そして、奥出雲町の物産を海外への販売につなげたり、地元を離れた若い人たちに奥出雲町に戻って地域産業の発展に協力するよう、呼びかけていました。
山内さんがされたことの1つに、奥出雲町の氏神様の神社「稲田神社」の復活がありました。以前の稲田神社は荒れ果てた状態で、社殿には落書きすらありました。そして、財政破綻寸前の自治体の名前に奥出雲町が入っていたこともあります。
山内さんが氏神さまの神社復活に力を入れる理由。
「氏神さまの神社をちゃんとしてこそ、この地域の発展がある。」
きっと、氏神さまを大切にする意味をご存知だったのでしょう。
山内さんが奮闘する中で変化がありました。稲田神社の面倒を出雲大社が直接見てくれることになったのです。そして、現在では奥出雲の立派な氏神様の神社として多くの人達が訪れるようになっています。
かつての日本人は、土地の神さまと共に生きる意識を持っていたように思います。自分の力・人間の力で全部やっていると思ったら、それは「傲慢」。人間の傲慢さは、いろんなかたちで「間違っていますよ」という警告が発せられるのかもしれません。
世界の「たたら」
奥出雲には日本に一つ、否、世界に一つ存在する貴重なものがあります。
それは、「たたら」です。
たたら製鉄は、古代から伝わる製鉄(和鋼)のことです。
奥出雲地方の良質の山砂鉄と豊かな山林から産出される木炭を粘土で作った炉によって作る「鋼(はがね)」は、近代製鉄技術をもってしてもできない技術なのです。
その技術が島根県の地方の奥出雲町で、世界で唯一、人の手によって3日3晩で作られます。それが、「玉鋼(たまはがね)」です。玉鋼は、日本刀を作る際に必ず必要なもの。その日本刀の原料100%を供給しています。
玉鋼を作る技術も、日本の伝統の日本刀の原料も、奥出雲にしか存在しない唯一のもの。正に、神秘と奇跡の「たたら」があるのが奥出雲なのです。スタジオジブリの映画「もののけ姫」にも「たたら」が登場します。宮崎駿監督も奥出雲町に視察に来られています。機会があれば、ぜひ、「もののけ姫」をご覧になってみてください。
神話とパワーフードの里 奥出雲
更に、奥出雲で注目すべきことは神話の宝庫であること。
奥出雲は、神話の中ではスサノオノミコトとヤマタノオロチの戦いの伝説の場所とされています。また、稲田姫命の故郷でもあり、スサノオノミコトと稲田姫命の出会いの場でもあります。
また、奥出雲には島根県の松江にある八重垣神社の元宮があります。常に女性で賑わっている八重垣神社は元々は奥出雲にあったことは余り知られてはいないことです。そして、奥出雲の八重垣神社周辺には松江同様に鏡の池があります。更に稲田姫命の両親が住んでいた場所などもあります。松江の八重垣神社に行く人々にとっても奥出雲は正に行くべき聖地と言えるでしょう。
そして、島根県奥出雲町は自然溢れる観光地としてもお勧めな場所です。
体に良いものを食べたい、ゆっくりと自然の風景を楽しみたい方、普段ハードワークでお疲れな方には特におすすめです。何も無い片田舎の日本の原風景に癒されます。
トロッコ列車やおろちループなどでも有名です。食べ物もお酒もとてもおいしい。奥出雲そば(おそらく日本一!?)、仁多米のご飯などもハイレベルです。地元の食材を使ったパワーフードを存分に楽しめます。
出雲大社の神在祭の時期に、出雲大社参拝と合わせて奥出雲に訪れるのもお勧めです。
ちょうど紅葉の季節と重なることもあり、新米や新そばが頂けるかも知れません。
お勧めの温泉宿で美味しい食事と美味しい食事に囲まれて、奥出雲の夜をゆっくりと過ごしてみてもよいかと思います。
ぜひ、出雲大社の神在祭で神々に感謝と誓いをした後で、稲田姫の故郷で育ったお米と奥出雲で山の幸を楽しむ幸せを実感してください。奥出雲の地で日本人のアイデンティティを感じ取ることがきっとできるに違いありません。